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誤読ノート460 「沖縄のミステリー:悪霊と死者、日米と沖縄、ヤマトンチュ・アメリカーとウチナーンチュ」 [牧師の本棚]

誤読ノート460 「沖縄のミステリー:悪霊と死者、日米と沖縄、ヤマトンチュ・アメリカーとウチナーンチュ」

「宝島」(真藤順丈、講談社、2018年)

「この網の目からは、農作物を荒らすイナゴの大群のように悪いもの(ヤナムン)が湧きだしてきて、島の暮らしのひだにまではびりこり、平穏を脅かして、島民たちの魂すらも蝕んでしまう」(p.344)。

 基地の金網から、悪霊がつぎつぎと飛び出していく。けれども、それを迎える者たちもいる。

「歳月にも朽ちずに土地に息づくウタキ。それはすばらしく頼もしい、この島の祈りを一手に引き受けてくれるような存在だとは思わんかね」(p.348)。

「過去の出来事(サチユヌー)は、すぐそこにある現実(ユーヌサチ)として立ち現われ、島民の生は明転と暗転をくりかえす。あの日からずっと響いているその声に、だれもが知らず知らずのうちにその身をさらしている。空はどこまでも青く、死者たちが帰ってくる」(p.350)。

 かたや米軍基地、日本政府・日本政府の暴力。かたやウタキ、ユタ、ノロ、ニライカナイという沖縄の民衆世界、宗教世界。

 日本軍の支配、米軍の侵略、沖縄戦、県民の四分の一の死、土地・資源・生活の略奪、兵士に襲われ殺される少女たち、米戦闘機墜落により焼き殺された小学生たち、教公二法阻止闘争、全軍労(全沖縄軍労働者組合)ストライキ、コザが燃えた夜、カメジロー・・・。沖縄近代史。

「自分がこの房で、なにを渡すまいとしているか。アメリカーや日本人(ヤマトンチュウ)が、この島のなにを欲しがっているのか」(p.88)。

「おれは最近思うんだよな。ほんとうに目の仇にしなきゃならんのはアメリカーよりも日本人(ヤマトンチュ)なんじゃないかって。デモで声を上げるのが民主主義の基本だなんて復帰協は言うけど、この島の人権や民主制はまがいものさ。本物のそれらはもうずっと、本土(ヤマトゥ)のやつらが独り占めにしてこっちまで回ってきとらん」(p.239)。

 日本の人権や民主制もまがいものだが、日本が沖縄に対して、人権を蹂躙し、剥奪し、沖縄の「民」の「主」権など一顧だにせず、廃棄してきたことは事実だ。

 日本に復帰すべきか。独立すべきか。主人公の一人である青年が出した答えに、驚いた。けれども、当然の考えであった。

 沖縄の歴史を背景にした幾重もの苦悶の青春とミステリー。もっとも深い意味でのミステリー。
 
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「銀の椅子 ナルニア国物語⑥」・・・キリストや聖書とのつながりで読めば、より深い味わい [牧師の本棚]

誤読ノート449 「キリストや聖書とのつながりで読めば、より深い味わい」

「銀の椅子 ナルニア国物語⑥」(C・S・ルイス著、土屋京子訳、光文社古典新訳文庫、2017年)

 岩波書店の瀬田貞二訳から五十年ぶりの新訳。ナルニア国物語全七巻中の第六巻。文体も挿絵も、あたらしいゆえの心地良さが、たしかにある。

 ナルニア国物語と言えばアスラン、アスランと言えばキリストの比喩、という解釈が定番だが、この本の解説者は、「アスランはなにか(例えばキリスト)を象徴するために創り出されたキャラクターではない」「アスランは、ルイスの中にむかしからあった『絵』であり、偉大で力強い百獣の王ライオンそのもの」(p.379)と言う。

 さらに、ルイスは「『神』という、描写しえないものを描写しよう」とする「方法がうまくいかないこと」(同)知っていた、と解説者はつづける。

 たしかに、そうであろう。しかし、もともとはライオンそのものとして描いたアスランを、ナルニア国物語においては、キリストの象徴にする魅力からルイスは逃れられない。ときに、そこから距離をとってもみせるが。

 「わたしがあなたがたを呼んだのでなければ、あなたがたがわたしを呼ぶことはなかっただろう」(p.41)という個所を読めば、聖書に親しんでいる読者は、ヨハネ福音書の「あなたがたがわたしを選んだのではない。わたしがあなたがたを選んだ」というイエス(・キリスト)の言葉を思い浮かべるだろう。

 他方、「あの、約束してもらえますか? わたしが近くへ行ってもなにもしない、って」と問う子どもに対し、アスランは「わたしは約束しない」(p.38)とつれなく思える態度をとる。聖書では、神の人間への「約束」はひじょうに大きなテーマであるにも関わらず。もっとも、アスランのここでの約束拒否には意図があるのであって、大きな流れでは、しっかり約束を果たすのだが。

 主人公の女の子は夢を見る。夢の中にアスランが訪れる。聖書においても、神はしばしば夢を通して人に語りかける。

 「子どもたちは小川の中をのぞきこんだ。そこには、金色の小石が敷きつめられた川底に息絶えたカスピアン王が横たわり、王の上をガラスのように澄んだ水が流れていた」(p.359)。けれども、聖書を知る読者は王は悲惨な結末を遂げたと失望することはないだろう。新約聖書巻末のヨハネによる黙示録には「天使はまた、神と小羊の玉座から流れ出て、水晶のように輝く命の水の川をわたしに見せた」というように、神の世界が描かれているからだ。

 このように、ナルニア国物語は、キリストや聖書とのつながりで読めば、やはり、より深い味わいを楽しめるのだ。

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「もうひとりのはかせ」 [牧師の本棚]

誤読ノート448 「ことしのクリスマス最高の新作絵本」

「もうひとりのはかせ」(原作:ヘンリ・ヴァン・ダイク、文:中井俊己、絵:おむらまりこ、新教出版社、2018年)

新約聖書のマタイによる福音書には、イエスがユダヤのベツレヘムで生まれたとき、東の方から占星術の学者たちがやってきて、黄金、乳香、没薬を贈った、という物語が載っている。キリスト教の学校や教会で、観たことや演じたことがある人もいるだろう。

 この学者たちは博士とも呼ばれ、贈り物の数から三人と推測されている。原作者は、生まれたばかりのイエスを訪ねようとした博士は、じつはもうひとりいた、ということにして、ペンを手に取った。

 その原作を、子ども向けに日本語で書き直し、原作にはない絵を、おむらまりこさんがあたらしく画いたのが、この絵本だ。

 ページで言えば三十数頁、見開きで数えれば十数枚の絵。これがじつにすばらしいのだ。

 挿絵ではなく、絵が物語そのもの。まさに絵本。

 まるで映画のような、見事な場面変化。

 夜があり、旅があり、愛がある。

 最後の三つの場面は圧巻。

 子どもたちは大好きになるだろう。大人たちは深く感動するだろう。

 小説の映画化とおなじように、原作の絵本化も創作であり、芸術であることを教えられた。

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誤読ノート446 「人に寄り添う喜びと困惑」 「もう一人の博士」(ヴァン・ダイク、新教出版社、1983年) [牧師の本棚]

誤読ノート446 「人に寄り添う喜びと困惑」

「もう一人の博士」(ヴァン・ダイク、新教出版社、1983年)

 タイトルは以前から知っていましたし、もしかしたら読んだこともあるかもしれませんが、昨年のクリスマスに友人が話題にしていて、今年のクリスマスはあたらしい絵とあたらしい文の絵本も出版予定とのことなので、この旧版を読んでみることにしました。

 作者は画家のアンソニー・ヴァン・ダイクとは別人です。

 「最悪にあまんじているよりは、せめて最善の影でも追うほうがましだ。不思議を見ようとのぞむ者は、しばしば、ただひとりで旅する覚悟をしなければならない」(p.24)。

 拝火教の高僧が主人公に語った言葉。たとえ影であろうと幻であろうと、最善を追い求め、世界の根底にあるもの、すなわち、真理を求める旅は、わたしたちにも求められていると思います。影には、陰だけでなく、光の意味もあるのですから。

 「信仰と愛情とのいたばさみになったときの、あの困惑」(p.53)。主人公は、探し求めているものに出会えば奉げようと、全財産を三つの宝石にして携えますが、道中出会った苦しむ人びとを支えるために費やしてしまいます。

 それは、けっして「愛」「慈しみ」という言葉の表面にあるうつくしさだけではありません。自分の一部を削って人を支えようとするとき、わたしたちには「いたばさみ」や「困惑」がつきものなのです。言い換えれば、愛情とは、喜びやきれいな心だけでなく、このふたつをも含むものなのです。それが語られているように感じ、かえっておだやかな気持ちになりました。

 なお、一緒に収められている「最初のクリスマス・ツリー」では、キリスト教以前のヨーロッパの宗教への蔑視が見られ、残念です。「もう一人の博士」では、反対に、(ユダヤから見て)東方の宗教への敬意を示しているように感じたのですが。

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「花も星も、言葉も行動も、すべては永遠と根源を指さしています」←「生きていくうえで、かけがえのないこと」(若松英輔、亜紀書房、2016年) [牧師の本棚]

誤読ノート445 「花も星も、言葉も行動も、すべては永遠と根源を指さしています」

「生きていくうえで、かけがえのないこと」(若松英輔、亜紀書房、2016年)

花の奥には何があるのだろうか。内側へと重なりあう花びらが収束する一点はどこにあるのだろうか。

 大地が芽を萌やし出す。湖の底にはこんこんと湧き出る泉がある。それらは、わたしたちの生きる世界とわたしたちにも、目に見えないがこれをつねにあらしめる根源があることをまざまざと物語っている。根源とは永遠の別名である。

 「生きていくうえで、かけがえのないこと」。これは、処世術ではない。かけがえのないことは、自分で獲得するものではない。言葉や花鳥風月を深くじっと眺めていれば、おのずと浮かび上がってくる根源と永遠のことだ。

 「書けないという実感は、自分のなかにある、容易に言葉にならない豊穣な何ものかを発見する兆しだともいえる」(p.134)。つまり、書くという言葉は「容易に言葉にならない豊穣な何ものかを発見する」ことを意味する。

  「何もの」とは何だろうか。「それは土に埋まった宝珠を掘り当てるような営み」(p.135)。マタイ福音書を思い出す。「天の国は次のようにたとえられる。畑に宝が隠されている。見つけた人は、そのまま隠しておき、喜びながら帰り、持ち物をすっかり売り払って、その畑を買う」。「天の国」とは、まさに、目に見えない神、つまり、根源であり永遠なる存在にほかならない。

 本著には「ふれる」「聞く」「愛する」など、二十五の動詞が取り上げられている。そして、それぞれが「かけがえのないこと」を志向していることがつづられている。

 「『念う』は、念願、念仏という表現に見られるように、意識の彼方、私たちが心であると感じる場所の、さらに奥深くで『おもう』ことを意味する」(p.101)。

 「人が働くのは、死すら私たちから奪えない何かをそれぞれの人生で実現するためではないだろうか」「働くとは自己を見つめ、他者と交わりながら、魂と呼ばれる不死なる実在にふれることである」(p.83)。

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